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シットロト踊り  (H16.7.26)



シットロト踊り


総勢30名のシットロト踊り保存会の皆さん


7月26日(旧暦6月10日)室戸市に伝わり高知県無形民俗文化財に指定されている「シットロト踊り」を見てきました。


3年ほど前、ある俳句雑誌に室戸市の女性がシットロト踊りの一連の句を発表しているのを見たのが「シットロト踊り」との始めての出会いです。


俳句から分かったのは、室戸の漁師さんたちの素朴な踊りらしいということだけ。「シットロト」もなにやら意味不明でよく分からないものでした。


土佐の三大祭り(秋葉さま、お神穀さま、志那禰さま)のように、広く知れ渡り前宣伝も華々しいお祭とは少し趣が違っています。


事前の宣伝は聞こえてこないので、思い出したときには、その年の踊りは終わっていたりします。


今年は、事前に調べ、「7月26日、日の出前の4時半から踊り始め、室戸市内のあちこちへ移動し、午後4時半頃まで踊る」という情報を得て当日室戸へ向かいました。


亀の花笠をかぶる踊り手


赤い襷は鉦・太鼓を叩く人


7時過ぎ、西寺(四国88ヵ所第26番金剛頂寺のこと)に着いたものの、踊りはおろか、人の気配もありません。

「日を間違えた?まさか?」と、札所の庭をうろうろしていると、西寺檀家会館の近くに一人の女性が佇んでいました。



話をしてみたら、その方は俳句の題材を求めて、「シットロト踊り」を毎年見に来ているとのことでした。


「今踊り手さんたちは朝ごはんを食べているから、もう少ししたら踊るようです」と教えてくれました。

やがて、ぼちぼち集まってきた踊り手は、何十年も潮風を受けて生き抜いてきた無骨な男たち。


西寺本堂前


踊り手がかぶる花笠


海亀の乗った花笠


彼らが被る華やかな大きな花笠には、たくさんの猿が縫い付けられています。

「災いが去る」という意味合いがあるとのことです。

「マグロを釣りよったら、海亀がかかってきたわよ。けんど死んだき、剥製にしたがよ。」と、人気No.1の「亀の花笠」の持主が話してくれました。



さあ、踊ろうか!の掛け声がかかります。

浴衣に白足袋、藁草履。頭には花笠。手は手甲に日の丸の扇子。

真ん中に、鉦、太鼓、歌い手(音頭という)の3人、その周りに二重の円陣ができて、歌にあわせて踊り始めます。

その踊りというのが、実に無骨そのもので、緩も急もなく、眠たくなるような・・。(踊り手さん、ごめんなさい!)


大事な花笠は
トラックで運びます



刈り取り寸前の稲穂の
向こうで「シットロト!」



消防屯所では保育園児たちが待っていました


当地には、伝統の祭りが他にもありますが、どの祭りでも、歌い手がいて、大きな声で歌います。

潮風に鍛えられた喉は逞しく且つ美しく、海のかなたへ響けとばかりに歌います。そして、めっぽう上手いのです。

10分ほどで終わり、次の場所へ。近くなら歩き、遠くへはマイクロバスで移動します。


「ネエさん、どっからきた?」

「野市です。シットロトってナンですか?」

「300年ゆわんも前に、魚の供養をしようと6月10日に漁師が踊ったと。ほいたら、次の年が大漁じゃった。それから毎年魚の供養と大漁祈願で踊るようになったがよ。今は高知県の無形民族文化財になっちょらあよ。」

「そういう謂れを書いたものはありませんか?」


岩戸神社ではご近所さんたちが待っていました

 


花笠の周りに集まる子供たち


「奈良師に碑があらあよ。あとでそこへも行くが、見たかったら、あしらあに付いて来たらえいが、車に乗っちゅうかよ?」


「ハイ、車です。付いて行って構いませんか?」


「ネエさんも暑いにたまらんのう!」


海辺に出ると、子供たちが待っていました。

花笠の周りにわっと集まってきました。


被せてもらった子供の嬉しそうなこと!



海に向かった小さな祠の前には大漁旗が立てられていました。

そして、まだまだ踊りは続きます。


海の男たちは、魚に感謝し明日からの豊漁を祈って、夕方6時まで、室戸市内の33ヵ所の寺社や集落で踊りを奉納してまわります。



被せてもらった子供の
嬉しそうなこと!


海に向かった小さな祠の前の大漁旗


そこには、同じ地球に生き自分たちの暮らしのために命を供してくれる魚たちへの限りない愛情と、大自然の営みに対する敬虔な祈りがあると感じ、私は胸を打たれました。


漁師さんたちがぶきっちょに緩も急もなく踊ることは、生きるということ、そのものなのだと思いました。


              


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